塗装の基礎
外壁塗装の下塗りとは — 国の標準仕様書が示す3工程と、メーカー9製品で違う規格表記
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この記事のポイント
- 国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」では、「下塗り」は1つの工程ではなく、吸込止め(シーラー)・下地調整塗り(フィラー)・下塗り(JASS 18 M-201)の3工程に分かれています。ただしこの仕様書は公共建築物向けで、戸建てに多い窯業系サイディングの表がありません
- 耐候性塗料塗り(表18.7.3)では、上塗りがA種(ふっ素)・B種(シリコーン)・C種(ポリウレタン)のどれでも、下塗りの規定は同じJASS 18 M-201のシーラー・塗付け量0.08kg/m2です。上塗りのグレードを変えても下塗りの規定は変わりません
- 日本ペイント・エスケー化研・関西ペイントの下塗り材9製品を突き合わせると、分類語(下塗り材・下地調整材・シーラー等)、規格の書き方(JIS K5663/JIS A6909/JASS18 M-201/規格記載なし)、標準塗付け量の単位や有無がメーカー・製品ごとに違います
- デスクリサーチの見積事例では、上塗りの塗料を変えても下塗りの単価(800円/m2×120m2=96,000円)は4事例とも同一でした。一方エスケー化研の設計価格は同社内でも製品区分によって640円/m2〜2,140円/m2と3倍以上違います。この2つは前提が違うため足し合わせたり高い安いと比較したりできません
- 塗装相場ナビの相場マスタ(坪数×塗料グレードの総額レンジ・15行)には「下塗り」「シーラー」の語を含む行がなく、下塗り単独の相場は自社データとして持っていません
※画像はイメージです(写真素材: Pexels)
この記事の要点
- 国土交通省「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」では、「下塗り」は1つの工程ではなく、吸込止め(シーラー)・下地調整塗り(フィラー)・下塗り(JASS 18 M-201)の3工程に分かれています。ただしこの仕様書は公共建築物向けで、戸建てに多い窯業系サイディングの表がありません。
- 耐候性塗料塗り(表18.7.3)では、上塗りがA種(ふっ素)・B種(シリコーン)・C種(ポリウレタン)のどれでも、下塗りの規定は同じJASS 18 M-201のシーラー・塗付け量0.08kg/m2です。上塗りのグレードを変えても下塗りの規定は変わりません。
- 日本ペイント・エスケー化研・関西ペイントの下塗り材9製品を突き合わせると、分類語・規格の書き方・標準塗付け量の単位や有無がメーカー・製品ごとに違います。
- デスクリサーチの見積事例では、上塗りの塗料を変えても下塗りの単価(800円/m2×120m2=96,000円)は4事例とも同一でした。一方エスケー化研の設計価格は同社内でも製品区分によって640円/m2〜2,140円/m2と3倍以上違います。前提が違うため、この2つは足し合わせたり高い安いと比較したりできません。
- 塗装相場ナビの相場マスタ(坪数×塗料グレードの総額レンジ・15行)には**「下塗り」「シーラー」の語を含む行がなく**、下塗り単独の相場は自社データとして持っていません。
国の標準仕様書は「下塗り」を1つの工程として扱っていない
外壁塗装の見積書には「下塗り」と一行で書かれていることが多いですが、国土交通省 官庁営繕の「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」18章 塗装工事・15章 左官工事を見ると、実際は複数の工程に分かれています。この仕様書は次のように適用範囲を定めています。
「この節は、木部、鉄鋼面、亜鉛めっき鋼面、モルタル面、コンクリート面、ボード面等の素地ごしらえに適用する。」(18.2.1)
対象は木部・鉄鋼面・モルタル面・コンクリート面・ボード面等で、戸建てで多い窯業系サイディングを名指しした表はありません。この限界を踏まえたうえで、モルタル面・コンクリート面・ALCパネル面・押出成形セメント板面の規定を組み直したのが下の図です。
**モルタル面(18.2.5、種別の特記がなければB種)**の素地ごしらえ(表18.2.4)は、工程3「吸込止め」がJIS K 5663 合成樹脂エマルションシーラーで「全面に塗り付ける。」、工程4「穴埋め、パテかい」は建築用下地調整塗材またはパテで「ひび割れ、穴等を埋めて、不陸を調整する。」と規定されています。なおA種のみ工程6「パテしごき」で「全面をしごき取り平滑にする。」が加わり、B種はここで終わります。合成樹脂エマルションパテについては「合成樹脂エマルションパテは、外部に用いない。」という注記もあります。
**コンクリート面・ALCパネル面(18.2.6、種別の特記がなければB種)**の素地ごしらえ(表18.2.5)は、工程3「吸込止め」がJIS K 5663の合成樹脂エマルションシーラーで「全面に塗り付ける。」(ただし「コンクリート面の場合は、工程3を省略する。」)、工程4「下地調整塗り」がJIS A 6916 建築用下地調整塗材のC-1・C-2・CM-2またはEで「全面に塗り付けて平滑にする。」です。この使い分けは15.6.5(下地調整)で規定されており、「下地の不陸調整厚さが1mm 以下の場合は、(ウ)の下地調整塗材 C-2 に代えて、下地調整塗材 C-1 を平滑に塗り付けることができる。」「下地の不陸調整厚さが3mm を超えて 10mm 以下の場合は、(ウ)の下地調整塗材 C-2 に代えて、下地調整塗材 CM-2 を平滑に塗り付ける。」と、不陸(凹凸)の厚さで使い分ける規定です。一般に「フィラー」と呼ばれるのはこの区分にあたります。
**押出成形セメント板面と、耐候性塗料塗り(DP)におけるコンクリート面(表18.2.6)**では工程の順番が逆になり、工程3「下地調整塗り」が建築用下地調整塗材(ただし「押出成形セメント板面の場合は、工程3を省略する。」)、工程4「吸込止め」がJASS 18 M-201の「反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー」です。この工程4について「工程4のシーラー及び工程5のパテは、上に塗り重ねる塗料の製造所の指定するものとする。」という注記があり、素地ごしらえの段階から上塗りメーカーとの整合が求められています。材料の規定としても「下地が押出成形セメント板の場合は、日本建築学会材料規格 JASS 18 M-201[反応形合成樹脂シーラーおよび弱溶剤系反応形合成樹脂シーラー]による。」「なお、下塗材、主材及び上塗材は、同一製造所の製品とする。」(15.6.2)と定められています。
そして耐候性塗料塗り(18.7.4、表18.7.3)では、素地ごしらえの後にさらに「下塗り」という工程が続きます。「コンクリート面及び押出成形セメント板面の耐候性塗料塗りは、表 18.7.3 により、種別は特記による。」とあり、この表の工程1「下塗り」はA種(ふっ素)・B種(シリコーン)・C種(ポリウレタン)のいずれでも同じJASS 18 M-201のシーラー、塗付け量0.08kg/m2です。つまり上塗りのグレードを変えても、下塗りの規定は変わりません。上塗りのグレード自体は塗料グレードの違いで解説しています。
メーカー3社9製品で「下塗り材」の呼び方・規格・塗付け量を比べる
仕様書は公共建築物向けで抽象的な規定にとどまるため、実際の製品でどう表記されているかを日本ペイント・エスケー化研・関西ペイントの下塗り材9製品で突き合わせました。
日本ペイントは製品カテゴリの時点で「下塗り材(シーラー)」と「下地調整材(フィラー)」を分けています。「パーフェクトサーフ」は「窯業系サイディングボード改修用下塗材」として、適用下地に「コンクリート、モルタル、窯業系サイディングボード」と明記されています。仕様書には窯業系サイディングの表がないため、戸建てのサイディング住宅で下塗り材を選ぶ根拠になるのは、この種のメーカー公式の適用下地表記です。同じく「アレスダイナミックシーラーアクア」(関西ペイント)も適用下地に「窯業系サイディングボード、窯業系屋根」を挙げています。
規格の書き方も統一されていません。エスケー化研「水性ミラクシーラーエコ」は「JIS K 5663 合成樹脂エマルションシーラー」、日本ペイント「パーフェクトフィラー」・エスケー化研「水性ソフトサーフSG」・関西ペイント「アレスダイナミックフィラー」「アレスホルダーHG」は「JIS A 6909 可とう形改修塗材E」(表記は各社で細部が異なる)、日本ペイント「ファイン浸透シーラー」・エスケー化研「マイルドシーラーEPO」は「JASS 18 M-201」系、関西ペイント「アレスダイナミックシーラーアクア」は規格番号の記載がなくホルムアルデヒド放散等級「F★★★★」のみの表記です。塗付け量も、kg/m2/回で明記する製品(パーフェクトサーフ0.20〜0.40、パーフェクトフィラー0.20〜0.90、アレスダイナミックフィラー・アレスホルダーHGはローラーで0.3〜0.5)と、標準塗坪(缶あたりの施工面積)のみで塗付け量[kg/m2]を明記しない製品(水性ミラクシーラーエコ、水性ソフトサーフSG、マイルドシーラーEPO)が混在しています。
なお、関西ペイントの下地調整材で通販サイト等に流通名が見られる「アレスホルダーGⅡ」は、公式ドメインのデータシートが2026年9月24日時点で404(取得不可)でした。本記事では同カテゴリ(水性微弾性下地調整材)の現行品「アレスホルダーHG」の公式データシートを採用しています。
「シーラーは必要か・何回塗るか」はメーカーでも書き方が違う
シーラーの要否についても、メーカーの説明は一様ではありません。関西ペイント「アレスダイナミックフィラー」は次のように案内しています。
「本品は、塗替用微弾性フィラーです。新設素材面や旧塗膜の吸い込みが著しい場合には、必ず適性なシーラーを塗装して下さい。」
一方、同社の「アレスホルダーHG」は「シーラーレス塗装が可能です。」としつつ、こちらにも「新設素材面や旧塗膜の吸い込みが著しい場合には必ずシーラーを塗装して下さい。」という条件付きの注記が続きます。「アレスダイナミックシーラーアクア」は「※2 劣化した吸込みの著しい素材の場合、2回塗りしてください。」と、塗り回数を下地の状態で変える案内です。日本ペイント「パーフェクトフィラー」は「シーラーとフィラーの機能を兼ね備えているので、さまざまな種類の既存塗膜に直接塗装できます。」、エスケー化研「水性ソフトサーフSG」も「工期短縮(1つの材料で下地調整、下塗り、中塗りの機能を備えています)。」と、1つの製品で複数工程を兼ねる設計であることを説明しています。
3社の書き方に共通するのは、下地の吸い込みが著しい場合に工程や回数を追加する考え方で、違うのはフィラー系製品が「シーラー省略可」とするか「必ずシーラーが必要」とするかです。当サイトでは、下塗りを省くと何年で不具合が出るかという因果関係は出典で確認できないため、断定を避けています。見積書に下地の状態を踏まえた工程・回数が明記されているかを、次の章の観点とあわせて確認してください。
下塗りの単価は「上塗りを変えても変わらない」— 見積事例と設計価格が示す構造
費用面でも、下塗りには上塗りと違う性質があります。ヌリカエが公開する30坪住宅の塗装事例(2025年5月時点のデスクリサーチ)では、シリコン・ラジカル制御型・フッ素・無機の4種類の塗料を比較していますが、下塗りの行はどの事例も**「800円/㎡」「120㎡」「96,000」円で同一**でした。金額が変わるのは上塗りの行だけです(例: シリコンの上塗り「2,300/㎡」×120㎡=276,000円)。表の注記には「データ出典:費用は「ヌリカエ」が行った2025年5月時点のデスクリサーチより」「なお、ご紹介する見積もり事例は一例となりますので、あくまでも参考としてご覧ください。」とあります。この4事例に限って言えば、上塗りの塗料グレードを変えても下塗りの単価は変わっていません。
一方、メーカーが設計価格を公表しているのはエスケー化研のみで、次の注記が付いています。
「設計価格は、300m2 以上を基準とする材工共の価格であり、下地調整費は含んでおりません。」
この前提のもとで、水性ミラクシーラーエコは「1回塗り:640円/m2」「2回塗り:1,280円/m2」、水性ソフトサーフSGは「薄付け仕上げ:1,300円/m2」「厚付け仕上げ:2,140円/m2」、マイルドシーラーEPOは「1,170円/m2(コンクリート、セメントモルタルなど外壁の場合)」です。同じエスケー化研の「下塗材」区分の中だけでも、製品によって640円/m2〜2,140円/m2と3倍以上の開きがあります。
この2つの数字は前提がまったく違います。ヌリカエの800円/m2はデスクリサーチによる見積事例の単価(足場・施工内容は事例ごとに異なる可能性がある一例)、エスケー化研の設計価格は300m2以上・材工共・下地調整費を含まない前提の数字です。足し合わせたり、どちらが高い安いと比較したりすることはできません。 ここから言えるのは、上塗りの塗料を変えても下塗りの単価は変わらない(見積事例)、同じ下塗りでも製品区分で設計価格が3倍以上違う(同一メーカー内)、という単価の構造そのものです。
当サイトの相場マスタには下塗り単独の行がない
塗装相場ナビの相場マスタ(market-rate-values.json、15行)は、坪数レンジ×塗料グレード(シリコン/ラジカル/フッ素/無機)ごとの総額レンジを持っていますが、2026年9月24日時点で「下塗り」「シーラー」という語を含む行はありません。総額の中には当然下塗り工程の費用も含まれていますが、下塗り単独の金額を当サイトのデータとして切り出すことはできない、というのが実情です。
坪数・塗料グレード単位の総額の目安は費用相場・相場計算機で確認できます。ただしこれらも「下塗りの相場」ではなく工事全体の総額であることに注意してください。
見積書の下塗り欄で確認すること
ここまで見てきたとおり、「下塗り」という一語の中に、仕様書上の3工程(吸込止め・下地調整塗り・下塗り)、メーカーごとに違う分類語・規格表記・塗付け量、そして上塗りとは連動しない単価の構造が入っています。見積書に「下塗り」とだけ書かれていた場合は、次を確認してください。
- 製品名とメーカー名。 「下塗り」だけでは、シーラー・フィラー・下地調整塗材のどれを指しているか分かりません。
- 規格表記。 JIS K 5663、JIS A 6909、JASS 18 M-201など、製品によって準拠する規格が違います。
- 窯業系サイディングが下地の場合、その製品の適用下地に明記があるか。 国の仕様書には窯業系サイディングの表がないため、メーカーの適用下地表記が唯一の判断材料になります。
- 塗り回数と、その根拠。 下地の吸い込みが著しい場合に回数や工程が増えるという案内は複数のメーカーが共通して書いていますが、実際に増えるかどうかは下地の状態次第です。
工事全体の順番は外壁塗装の流れ、見積書の他の項目は見積書の読み方で解説しています。上塗りのグレード選びで下塗りの規定自体が変わるわけではないので、シリコン塗料とはやウレタン塗料とはと合わせてグレードを検討したうえで、下塗り欄の製品名・種別・塗り回数が複数社の見積書でどう違うかを相見積もりで比較することをおすすめします。お手元の見積書の内容確認は見積書チェックもあわせてご利用ください。
よくある質問
下塗り・シーラー・フィラーは同じものですか?
呼び方も役割説明もメーカーで違います。国の標準仕様書は吸込止め(合成樹脂エマルションシーラー)・下地調整塗り(建築用下地調整塗材)・下塗り(JASS 18 M-201)の3工程に分けています。メーカー製品でも、日本ペイントは「下塗り材(シーラー)」と「下地調整材(フィラー)」を別カテゴリに分類する一方、エスケー化研は同じ「下塗材」という分類語を複数製品に使っています。「下塗り」という一語では区別できないので、見積書では製品名まで確認する必要があります。詳しくは本文の比較表をご覧ください。
シーラーは必ず塗る必要がありますか?
メーカーの回答は製品によって違います。関西ペイント「アレスダイナミックフィラー」は「新設素材面や旧塗膜の吸い込みが著しい場合には、必ず適性なシーラーを塗装して下さい。」としている一方、同社「アレスホルダーHG」は「シーラーレス塗装が可能です。」としつつ「新設素材面や旧塗膜の吸い込みが著しい場合には必ずシーラーを塗装して下さい。」とも書いています。国の標準仕様書でも、コンクリート面は工程3(吸込止め)を省略する規定があります(表18.2.5注1)。当サイトでは「省くとどうなるか」という因果は出典で確認できないため断定しません。見積書に工程が明記されているかを確認してください。
出典
- 国土交通省 官庁営繕「公共建築工事標準仕様書(建築工事編)令和7年版」18章 塗装工事・15章 左官工事
- 日本ペイント「パーフェクトサーフ」製品ページ
- 日本ペイント「パーフェクトフィラー」製品ページ
- 日本ペイント「ファイン浸透シーラー透明・ホワイト」製品ページ
- エスケー化研「水性ミラクシーラーエコ」製品ページ
- エスケー化研「水性ソフトサーフSG」製品ページ
- エスケー化研「マイルドシーラーEPO」製品ページ
- 関西ペイント「アレスダイナミックフィラー」データシート
- 関西ペイント「アレスホルダーHG」データシート
- 関西ペイント「アレスダイナミックシーラーアクア」データシート
- ヌリカエ「【2026年最新】30坪の外壁塗装の費用相場は?内訳ごとの単価や見積もり事例を紹介!」
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